人の生
何がどうなってここに立っているんだ?ときどき我に返って首をかしげるんだ。歌を聴くのが好きな少年だった。だれどそれを誰にも言えない気弱な子だった。
「久しぶりだな、そっちはどうだ?」
「元気してんなら、別にそれでいいんだ」
「つまらない愚痴は言いっこなしだ」
昔話もたまにはいいか。
俺は今も歌が好きなんだ。「暗い歌ばかり聞きやがって」と人は言うが。
これだけは本気で譲れないんだ。背負っているものが増えすぎたんだ。過ぎ去った人を覚えているか?
呆気なく命や夢が消える星で、ありふれたよくある悲しい話。そんなものに飽きもせずに泣き笑い。1つを手に入れて1つを失くしていつも「何か足りない」って泣いている。だけど後悔などしてやるものか。
いつもの居酒屋ではしゃぎ過ぎた。始発で帰るバカ達を太陽が照らした。「俺らの夜明けがやってきたんだ」誰かが言った。頭は痛いが妙に笑えた。そんな日々はもう遠い。俺らの夜明けはもうすぐそこか?
信じたものや人や感情があっという間に過ぎ去る街で、誰にでもどこにでもある悔し涙。そんなものに未だに突き動かされる。過ぎて行く景色、二度と振り返らないよ。人生は美しい。
「こんな時間か、そろそろ帰るか」
「なんだ帰りたくないって、まぁ俺も同じだが」
不安は多いけど進むしかない。
東京、大阪、横浜、福岡、きっと場所なんてどこでもいい。歌があればどこでもいい。俺の大好きな歌があれば。
大事なものは二度と手放さないよ。振り向かない。後ろには何もない。
「じゃあな、またな、身体だけは気をつけろよ」
「しっかりしろよ、ふらついてるぜ」
「見ろよ、もう朝日が昇ってきた」
人生は美しい。後悔などしてやるものか。
一生懸命走りきった、頑張りきった、悩みきった、そういった、映画ならエンドロールが流れるような場面があっても、実際の人生は終わらない。続いて行く。むしろ、そこからが「人が生きる」ということなんじゃないだろうか。